先週末、久しぶりに予定のない土曜日でのんびりしていたら、遅く起きた娘が出し抜けに家から車で小一時間ほどの映画館まで送れと言います。
どうやら、観たい映画が最寄りの映画館では上映されていないらしく、私に連れて行って貰う胸算用で、この一週間、不平も言わずに家事を引き受けていたようです。 それで、不承不承娘に付き合って映画館に行ってみると、「おくりびと」を上映していたので、私は、娘と別れてこの映画を観ることにしました。 「おくりびと」は、言わずと知れた第81回米国アカデミー賞外国語映画賞部門受賞作品。 結論から言うと、「やはり、アカデミー賞に輝く作品は違うなぁ。」と思いました。 私は、あんまり映画を観ていないので、こんなふうに言うと笑われるかも知れませんが、生涯観た映画の中で、最も良い映画かも知れません。 この賞を取っていなければ、私は、この映画をきっと観ていないでしょう。 プロモーションとか国際映画賞を取ることはやはり大切だと思いました。 さて、映画を観た感想です。 ストーリーは追いませんが、ネタバレありですので、ご注意下さい。 映画は、納棺師見習いの主人公、小林大悟が初めて納棺する場面から始まります。 この時点で、まず主演の本木雅弘さんに目を奪われました。 本木さんと言えばシブガキ隊のモックンとして活躍していた当時、度々テレビで観ていたことと、最近はCMでお目にかかる程度で、俳優としてのモックンを観るのは初めてでした。 モックンの端整な顔立ちは以前から分かっていましたが、その所作の美しさに見入ってしまいました。 生まれつき所作の美しい人は居るものですが、彼もそうなのでしょうか。 映画の中で、大悟がこの仕事を辞めようとした時、事務員の上村百合子(余貴美子さん)が「残念ね。社長があなたのことを気に入ってたのに。この仕事が天職だって。」と言う場面があるのですが、やはり、それはこの所作の美しさを指しているのかと思いながら観ました。 また、この納棺のシーンは恒にほぼ同じカメラワークで撮影されているのですが、その構図が利いています。 特に、終盤では観る側に納棺の手順が分かっているので、かえって期待感が高まりました。 また、この大悟はもともとチェロ奏者なのですが、先程映画のHPを観たら、この設定は大悟の妻、美香役に広末涼子さんを起用したことに起因するそうです。 私は、その偶然がこの映画をより美しく海外でも評価されるように仕上げているのだと思います。 なぜなら、そのことによって、BGMが海外の人に耳慣れたクラッシック音楽になっているから。 このBGMで、映画を観つつ、自分の美しい過去を思い出した方も多かったのではないでしょうか。 私も、大悟が働くNKエージェントで社長の佐々木生栄(山崎努さん)と事務員の上村百合子と三人でクリスマス会をした時に、大悟が演奏したグノーのアヴェマリアにぐっと来ました。 私は、シューベルトのアベマリアよりこちらの方が好きで、歌いながら泣けてしまうほどなのです。 そしてまた、チェロの音色がいいんですね。 人の肉声に近い気がします。 クリスマスと言えば、映画のラストに近いところでもクリスマス会の話題が出て来ます。 大悟の友人の母、山下ツヤ子(吉行和子さん)の火葬の時にツヤ子が切り盛りしていた銭湯の常連客、平田正吉(笹野高史さん)が、昨年末に二人でクリスマス会をしたと語るシーンです。 このクリスマス会って、日本を象徴していると思うんです。 誕生を神道で祝い、結婚をキリスト教で祝って、葬儀は仏式でという、外国人からは想像もつかない、しばしば批判される拙僧の無い日本を。 現に、この映画の中でも社長の佐々木が「どの宗派にも対応します。」と言い、仏式に混じって、キリスト教、神道の葬儀の場面も出て来ます。 でも、宗教にはこだわらないけれど、亡くなった人を厳粛に「おくる」という尊厳は持ち合わせているのだということが、海外の人にもこの映画で分かって貰えたのではないでしょうか。 日本らしいと言えば、この映画の中に日本らしい場面が沢山出て来ます。 しかも、一方向からの日本だけでなく、必ず一つの事象が双方向から描かれています。 例えば、日本らしい食べ物、干し柿とふぐの白子。 この庶民的な食べ物と高級食材の対比は面白かったです。 それから、ツヤ子と美香のファッションの違いも。 田舎者で年をとっているツヤ子の何時も同じ変な格好と都会に住んでいた未だ若い美香のミニスカートの可愛いファッション。 ONとOFFによって変化するイメージも良かったのではないでしょうか。 ただ、残念に思ったのは、都会の風景と田舎の風景の対比が分かりにくかったところでしょうか。 日本人なら、容易に想像がつくけれど、海外の人には分かりにくいでしょう。 でも、この映画は海外向けに作られたわけではないですから、仕方ないのかも知れません。 広末涼子さんと言えば、はじめは、映画を観ていて違和感がありました。 個性的な他の俳優陣の中にあって、なんだか、そこだけ刷毛ではいたようなサラッとした感じで、なんで彼女なんだろうって、疑問に思っていました。 でも、次第に、彼女だから、この映画がより美しいものになっていることに気づきました。 若いし、そのサラッとした感じが透明感を産むとでも言うのでしょうか。 他の効果もありましたし。 上で述べたファッションしかり、チェロしかり。 このように、一つ一つの場面のエピソードやカメラワーク、俳優もそうなのですが、映画のストーリーも本当に良かったです。 一本の映画の中にいろんな要素が含まれていて楽しめました。 親子の情について、夫婦愛について、仕事について、色々考えさせられました。 そして、最後の最後にあっとおどろく構成の上手さに泣かされました。
by lee_milky
| 2009-03-16 04:24
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Comments(4)
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at 2009-03-16 10:28
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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lee_milky at 2009-03-16 20:23
☆at 2009-03-16 10:28さん、こんばんは。
そうですね。 この映画に出会えて良かったと思える映画でした。 この映画、そんなに前に公開されたものだったんですね。 それすらも、知りませんでした。 その頃から、この映画に注目していらっしゃったんですね。 アカデミー賞受賞の時、山崎さんではないけれど、非公開さんもさぞかし嬉しかったことでしょうね。 実は、お返事を書く前に、そちらにお邪魔して来ました。 お知らせ、ありがとうございました。
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at 2009-03-16 21:57
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ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
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lee_milky at 2009-03-17 22:38
☆at 2009-03-16 21:57 さん、はじめまして。
非コメ、ありがとうございます。 非公開さんもご覧になったんですね。 本当に良い映画でした。 私の感性。。。嬉しいことを言って下さり、ありがとうございます。 屁理屈の多い私ですが、これからもよろしくお願いします。
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