土曜日に「アイ・カム・ウイズ・ザ・レイン」を2度見ることが出来ました。
この映画館、一月1200円の会費を支払うと、本人は観放題。 家族は、大人500円、こども300円で観られるので、家族連れの方が結構いらっしゃいました。 もしかしたら、5回の観覧の中で最も入場者が多かったかも? 以前、ここで「甘い人生」を観たときも、トーホーで観たときには黒だと思っていた色が緑だったことに気づいたのですが、今回も、グレーだと思っていたハシュフォードのアトリエの壁がうす紫色だったことに気づきました。 この映画、ドンポのシャツといい、リリのドレスといい紫が沢山出て来て、シタオが蒸かした芋まで紫芋だったのですが、こんなオープニングから既に紫が出て来てたのですね~。 てな事を思いながら、ぼーっと観てたら、クラインがシタオの父親からシタオ捜索の依頼を受けるシーンに画面が移り、父親が、「あらゆる汚染が怖くて、人との接触を断ち、息子のシタオとさえもこの10年直に会っていない。」と告げたとき、リリとドンポの濡れ場のシーンで、監督が夫人が演じる濡れ場を自身のこどもや夫人の母親さえも同席させたことを思い出しました。 つまり、シタオの父親とトラン・アン・ユン監督は逆のタイプの父親だと思ったわけです。 そこから、「もしかして、監督は、汚染を恐れないってこと?監督のメッセージは、それ?」と、思っていると、シーンは、フィリピンの街中へ。 その街中から、森の中に入っていくシーンになった時、あの父親がクラインに依頼するシーンは、例えば「甘い人生」の柳のシーンのように、この映画のメッセージを既に語ってるのかなと、思い当たりました。 すると、彼の職業が製薬会社の社長だったことに意味がある気がしてきました。 つまり、「この世の中は、汚染され、もう薬では浄化出来なくなってしまった。薬が効かなくなったとき、残る手段は人間の根源に帰る『手当』しかない。だから、父親の愛情を感じ取ることが出来なかったシタオは『汚染』を恐れる父に対峙し、『手当』によって人の痛みを和らげる者に変化する。『汚染』を恐れていてはいけない。『汚染』つまり『同化」することでしか道は開けないのだ。」 こう、思い至ったとき、監督の「こうなってほしい、ああなってほしいという望みよりも、“世界を受けとめる”ことが大切だと思います」という言葉を思い出しました。 映画のクライマックスで、ドンポがシタオに、クラインがドンポに「俺は地獄を見た。」と言い、ドンポはクラインのこの言葉を聞いて、クラインにシタオの居所を教えるわけですが、人生においてまさに「地獄を見た」監督だからこそ、この言葉が出てくるのでしょう。 戦争から逃れるため、ベトナムという生まれ故郷を捨てなければならなかった監督にとって、まさに、この言葉は、痛みとして感覚的に導き出した結論ではなかったでしょうか。 あぁ、平和な日本に生まれた私は、何とちっぽけなことでくよくよ悩んでいることか。 こうなってほしい、ああなってほしいという望みよりも、まずは自分が現状を受け止めなければ。 この映画が日本で受けなかった理由は、あるいはこんなところにあるかも知れません。 さて、フィリピンについたクラインは早速バーガスの元を訪ねます。 すると、なんと、バーガスはシタオの居た部屋に今も住んでいるのです。 つまり、既にシタオに「同化」しているのでしょう。 だからこそ、シタオが銃で撃たれた事実を知っているのにもかかわらず、クラインに香港に行ってみろとアドバイスをします。 香港に着いたクラインは旧知の刑事仲間メン・ジーを訪ねます。 その時、メン・ジーが接見していたのが、ス・ドンポ。 そして、クラインの目の前を通るのが医務室に連れて行かれるシタオ。 私は、前にこの映画を観たとき、原作だと言われている「人の子」にこだわっていたから、ドンポとシタオが三位一体の関係にあるのかと思っていたけど、そうではなく、監督はこの小説から、キリスト教の教義やドンポの登場の仕方を参考にしたのでしょうね。 だって、「同化」や「汚染」は、そのものになるのではなく、影響を受けて変化することだから。 きっと、「人の子」は監督にとって発想のきっかけになるいくつかの要素の内の一つなのでしょう。 さて、メン・ジーとクラインはその夜、香港の夜の街に繰り出します。 久しぶりに酒を酌み交わしながら、クラインはメン・ジーに刑事をやめた原因を語ります。 その時、クラインは自分が犯人に「同化」したことを「汚染」と表現します。 「同化」と「汚染」は同義語でしょうが、「汚染」は否定的です。 この時点では、クラインは自分の相手に「同化」するやり方に否定的だということです。 犯人のハシュフォードに「同化」したことで、自らも犯人の首を切り取り、精神に異常を来し、未だに女の裸体を見れば、ハシュフォードの「芸術作品」を思い出すクラインなのですから、「同化」に否定的なのは当然です。 しかし、そのクラインが結局はシタオに「同化」し、彼の足跡を辿ろうとします。 それは、クラインが五つ星のホテルを出て、出来るだけ粗末なアパートに移り、そのアパートをシタオの小屋の周辺にあった草で覆うことで分かります。 私は、クラインが「同化」を否定するのをやめ、再び対称に「同化」しようとしたきっかけは、ドンポにあると思いました。 リリがミフーに連れ去られた翌日、メン・ジーはス・ドンポを挑発します。 車を逆送しながら、毒づくメン・ジーに傷心のドンポは振り向こうともしません。 ところが、リリのことを悪くいわれた途端、目をむき、拳銃をメン・ジーに向けます。 メン・ジーは「なぜ、ドンポがリリのことを悪く言われるとあんなに腹を立てるのか理解できない。」と言い、瞬時にドンポに「同化」したクラインはこともなげに「愛だろう。」と言います。 この時、クラインはシタオに「同化」することを選択したのだと思います。 なぜなら、この直後に、メン・ジーにアパート探しの手伝いを依頼しますから。 つまり、この時、クラインは世界を丸ごと受け入れる第一歩を踏み出したわけです。 さて、シタオの「手当」を受けて薬の中毒から抜け出したリリはドンポの元に帰ります。 もう、この時のドンポが良いのです。 この映画が好きだからというのもあるのですが、やはり、このドンポが好きだから、私は映画館に通うのでしょう。 もっと早く、見に来れば良かったと後悔しきりです。 今回、感じたことですが、ドンポはあんまりメイクしてませんよね。 だから、素のビョンホンシに近い感じがします。 だから、ドンポが好きなのかなぁ^^ リリを探し求めるドンポはまるで写真集のメイキング映像を見るようです。 このリリとドンポの考えただけで羨ましい(笑い)シーンに対照的なのが、このシーンに続くクラインが現地の女を買いに行くシーンです。 我を忘れ、リリを抱くドンポ。 恐る恐る商売女の前に座るクライン。 おそらく、クラインはあの事件以来女を抱くことは出来なかったでしょう。 なぜなら、女の裸体はあの「芸術作品」を想起させますから。 でも、恐る恐るではあっても、女の元に行ったクラインは、既にハシュフォードの「汚染」から解放に向かっているということかも知れません。 翌朝、リリはシタオの元に帰ります。 でも、家を出た時点では、リリはシタオのところにお礼に行っただけではないでしょうか。 なぜなら、あのシタオの小屋にはおよそ不釣り合いな「ケーキ」を手みやげに身軽な格好をして出かけたのですから。 でも、人々に「手当」を施すあまり、自分自身がボロボロになっているシタオを見て、リリはその小屋を離れられなくなります。 「私がついている。」というリリ。 私は、この時のリリの様子を見て、雑誌T2009NO.6の41ページに「ドンポとリリが孤児院で兄妹のように育ち、彼が10代の時、初めて犯した殺人を彼女は見ている」と、ビョンホンシが語っているのが載っているのを思い出しました。 実は、私は、この雑誌を読んだ時、そのような過去が監督の中にあらかじめ用意されていたのではなく、ビョンホンシが聞いたことによって生まれたエピソードだと思ったのです。 それほど、突飛な感じがしたということです。 でも、今回見てみたら、このボロボロになったシタオを介抱する様が孤児として傷つき、更に人を殺して傷ついたドンポに寄り添うリリを彷彿とさせました。 リリは聖母マリアのように優しい女性。 あまりに優しいから、薬に頼ったのかしら。 だから、ドンポが心配ならドンポに寄り添い、シタオが心配ならシタオに寄り添い、シタオが死んでしまえば、ドンポの元に帰るのでしょう。 居なくなったリリを探して、ドンポがシタオの小屋にやってきます。 その時、ドンポの見たものはリリとシタオの寄り添う寝姿でした。 あの時の、ドンポの心境はどんなものだったのでしょうか。 あの、ドンポの表情があまりに悲しいです。 その表情とシタオを銃で撃った直後、シタオに手をさしのべられたときの表情とシタオを磔にしたとき、シタオが「お父さん」と言うのを聞いた時の表情が、どんどん変化していくのが鳥肌ものです。 ここで、「お父さん」も「同化」「汚染」と同じようにキーワードだったことを思い出します。 シタオが「お父さん」と言った直後、ドンポが泣き、シタオを助けに来たクラインがシタオに「お父さんからの依頼で来た。」と告げたとき、シタオが再び「お父さん」と言います。 話は、ちょっとだけ元に戻りますが、シタオの居所を知ったクラインがドンポの元を去るとき、入れ替わってリリが部屋に入ってきます。 その時、ドンポが顔を上に挙げかけるのですが、そこが中途半端な感じで、次のシーンに変わります。 そこ、続きが観たいところです。 韓国版は、日本版より少し短いですが、ドンポのシーンは日本版より長いかも知れませんしね。 韓国版も観てみたいです。
by lee_milky
| 2009-10-04 23:47
| +I come…
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Comments(9)
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克ちゃん
at 2009-10-05 08:38
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Milkyさん、おはようございます。
え~っ、地元に素敵な映画館がありますね~ 羨ましい! ソラリアシネマ(地元ネタでごめんなさい)は再映リクエストをだすと、 再映されることがあるけど・・・ アイカムの感想「なるほど~」と思いながら読ませてもらいました。^^ トラン・アン・ユン監督はご自分のメッセージを強くおっしゃる方ではないですよね。 「苦悩する男たちの美しさを堪能してください」みたいな。 何回か見て少しは理解したつもりでしたが、Milkyさんの感想ですっきりしました(笑) ありがとうございます♪ 韓国版、みたいですね!
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at 2009-10-05 21:32
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lee_milky at 2009-10-05 22:55
☆克ちゃんさん、こんばんは。
はい。 こどもの頃からよく行っていた映画館です^^ 今回、会員になりましたから、今後は、ビョンホン映画以外は新作は見ません。 ちょっと待って、ここで見ることにします。 あっ、私と同伴だと、4人まで一人500円で見られますよ^^ ソラリアも、古くなったから、色々と頑張ってますよね。 誰秘はここで見ました。 はい。韓国版見たいです。 釜山で見られる方が羨ましい。
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lee_milky at 2009-10-05 22:59
☆ at 2009-10-05 21:32 さん、こんばんは。
そうか、台風が来てますよね。 韓国に上陸なんでしたっけ? 気をつけて行って下さいね。 私は、今回は留守番組です。 今日のアイリスの発表会も、すーっかり忘れてました^^; ではでは、釜山、楽しんできて下さいね。 あっ、土産話も待ってます^^
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at 2009-10-05 23:27
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lee_milky at 2009-10-05 23:48
☆at 2009-10-05 23:27さん、こんばんは。
お~、リアルタイムでしたか? アイリスが始まれば、ビョンホンファンは、みんな同時にパソ前ですね~。 美日々見ながらチャッとしてた頃が懐かしいです^^ あ~、そのシーンもそうですよね。 今回、改めてタイトルクレジットを見たら、トップがジョシュ・ハートネットさん、次がトラン・アン・イエン・ケイさん、三番目がビョンホンシで、4番目がキムタクなんですよ。 だから、日本版は、かなりキムタクシーンが多いのじゃないか、韓国版はビョンホンシが多いのじゃないかと、私は踏んでいます。 ホントに。。。 それにしても、飛行機の中で、チャンイとドンポを往き来したのかしらね^^
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at 2009-10-09 12:05
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at 2009-10-09 12:10
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lee_milky at 2009-10-10 00:50
☆at 2009-10-09 12:10さん、こんばんは。
お母様の具合は如何ですか? ここに来て下さってるということは、快方に向かっていると思って良いのかしら? あぁ、オープントークは明日でしたね。 先程、ネットで情報を知って、「昨年より少ないなぁ。」と思ったところでしたが、昨年の当日と今年の前日を比較してたわけだ。。。 だったら、凄く多いですね。 でも、ルバースで交代で場所取りするから、楽しいのかな? 横断幕も立派なのが出来てましたね^^ あの記事を見て、自分もルバース会員だったことに気づきました。 オープニングセレモニーの動画もようやく観ましたが、おっしゃる通り、よい関係って感じでしたね。 アイ・カム・ウイズ・ザ・レイン。。。ご覧になったら、感想お聞かせ下さいね。
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