給食費の未払いにネグレクト。
ここ数年、マスコミが騒いでいる教育問題。
しかし、そんな問題は、私が教育現場に飛び込んだ20数年前から幾つもあった。
就職して2年目、私は、O君の担任になった。
O君は、1歳年上の姉、1歳年下の弟との3人兄姉。
姉は、不純異性交遊が主な原因で、施設に収監されていたため、母と弟と彼との3人家族だった。
彼も弟も小学校時代から、怠学のための不登校になっていた。
担任になって以来、毎日のように家庭訪問を試みたが、兄弟は、一向に登校する気配が無く、行き詰まり感があった。
そこで、「全員で修学旅行に行こう。」とテーマに、O君を中心に据えた班編制を行うことにした。
班編成会議の中で、クラス委員をしていたN君が、班長のY君と共に協力を申し出てくれた。
班替えの翌朝から、彼らは、早速行動を開始してくれた。
毎朝、彼ら二人とMさん、Oさんの四人でO君を迎えに行ってくれる。
給食に、ゼリーやケーキなどのおやつがついた日は、「今日は、O君に給食を届けますから、先生は、おやつを食べないで、O君の弟に分けてあげて下さい。」と、私に言いに来た。
雨の日も雪の日も、彼らは、O君のことを忘れなかった。
その甲斐あって、O君は、修学旅行に行く準備を始め、週に何日かは、登校するようになった。
でも、彼は、やはり修学旅行には参加することができなかった。
当日の朝、私は、彼を迎えに出かけた。
彼は、制服に着替え、大きな旅行バックを持って、階段に腰掛けていたけれど、母親は、絶対に行かせないと言う。
その時の、彼の大きく潤んだ瞳が今も忘れられない。
彼の参加を諦めて、駅に向かい、彼の班の子供達にそのことを告げると、N君達の怒りが爆発した。
どうしてO君がこんな目に遭わなければならないのか?
O君のお母さんは、ひどすぎる!!
家のお母さんなら、こんなことは絶対しない。
彼らが毎朝、迎えに行くと、一家は未だ寝ている状態で、彼らの声で目覚めた母親が、O君に悪口雑言を浴びせながら、足で蹴って起こそうとするのだそうだ。
でも、興奮する彼らに対して、私の口をついて出た言葉はこうだった。
O君のお母さんは、どんな環境で育ったのだろう。
あなたのお母さんと同じような環境だっただろうか。
どんな母親でもO君にとっては大切な母親。
その母親のことをせっかく友達になった彼らに悪く言われたら、O君はどんな気持ちになるだろうか。
若い私は、そう思い、こんなことを言ったのだった。。
チャミョンが、母親を頼って、帰省した時、私は、不意にO君のことを思い出した。
酔ったチャミョンは、母親に言う。
「どうして僕を待ってくれないの?」
「誰も居ない家に帰りたくなかったんだ。」
誰も居ない家に帰りたくなかったから。。。
そう言って、ティディは過ちを繰り返していた。
平凡に過ごしたいと言いながら、自堕落になっていくティディ。
そんな彼女に腹立たしさを覚えた。
彼女に振り回されるチャミョン。
彼女は、時代に翻弄された彼を温かく迎え入れる存在でなければならなかったのに。
でも、チャミョンが母親を頼ることで、自分を取り戻した瞬間、ティディを責められる者は、誰も居ないことに気付かされた。
彼女とO君の母親が私の中で重なり合う。。
そして、次の瞬間、こんなことを考えた。
毎年100件以上ものオファーがあるというビョンホンシの作品選びには、このドラマの出演経験が影響していないだろうか。
興行的に当たるか当たらないかというより、その映画のメッセージ性や監督のコンセプトを大切にしているビョンホンシ。
若いうちに、こんなドラマに出てしまったら、そうなるのは必然のような気がした。