<악마를보았다><悪魔を見た>を見た ネタバレあり

一台のlightvan(ライトバン)が、小雪降る夜道を走る。
そのフロントガラス越しに見える風景は、まるで悪魔の顔のようだ。
lightvan(ライトバン)は、최민식(チェ・ミンシク)演ずる경철(キョンチョル)の運転する学習塾の送迎車である。
子どもたちが乗るための車らしく、rear-view mirror(バックミラー)の両側には天使の羽が施されている。
その一対の羽が悪魔の瞳に、wiper(ワイパー)がへの字に曲がった悪魔の口元に見える。
つまり、その小さな羽は天使の羽であると同時に悪魔の瞳でもあるという、いわゆるだまし絵の一種、多義図形であるが、これは、とりもなおさず、この映画の中で이병헌(イ・ビョンホン)演ずる수현(スヒョン)を象徴的に表している。

しかし、その図は、映像美が真骨頂の김지운(キム・ジウン)監督にしては、いささか陳腐とも取れる映像である。
私は、そこに監督の意図を見た。
このシーンは、この映画が<悪魔>という目には見えない実態の無いものを、metaphysical(形而上的)に表しているのだということを暗示していて、さらに、このシーンが物語っている通り、この映画のシーン一つ一つが、監督によって意図的且つ用意周到に仕組まれたもので、偶然によって派生したものは何一つ無いという宣言だと取れるのである。

さて、そのlightvan(ライトバン)は、雪の夜道に為す術も無く停車している白い乗用車を発見し、その車の射程距離に停車する。
その車には、수현(スヒョン)の恋人が一人乗っている。
車が故障し、修理車が到着するまでの間、수현(スヒョン)に電話をかけ、声が聴きたいとせがむ。
수현(スヒョン)は勤務中にもかかわらず、同僚に隠れるように歌を歌う。
恋人同士の何ともほほえましい光景だ。

しかし、幸せの絶頂にある二人に、魔の手は忍び寄る。
動かすことのできない車の中に居て、逃げ出すことのできない彼女を、경철(キョンチョル)が容赦なく襲いかかる。
彼女は車の中でめった打ちにされた後、경철(キョンチョル)の住み家に連れ込まれ、体中のすみずみまで切断され、河原にうち捨てられる。
경철(キョンチョル)の、その一連の淀み無い行動は、彼がこれまで同じ様な事件を幾度となく犯してきたことを物語っている。

現実の世界でも、このような猟奇的な連続殺人事件が発生し始めて久しい。
宮崎勤の東京・埼玉連続幼女誘拐殺人事件の発生が今から21~22年前のことである。
この事件の動機は、事件の奇異さから、さまざまな憶測が飛び交い、また宮崎自身が要領を得ない供述を繰り返したことから、裁判でも完全な特定には到らなかった。
このように、現代の犯罪はその動機が複雑になり、それ故分かりにくくなっているように思う。

경철(キョンチョル)の場合も、これといった動機や背景は描かれていないが、しかし、だからと言って、彼の犯す凶悪な猟奇的殺人の陰に、理由が無い訳では無いだろう。

一方、수현(スヒョン)の復讐には明確な理由があり、映画の冒頭では、수현(スヒョン)の方が圧倒的な正義の側に立っている。
しかし、경철(キョンチョル)の飽くなき猟奇犯罪の連続と수현(スヒョン)の執拗な復讐劇の連続の中で、次第に2人の立場がまるで縄を綯うように絡まり、ついには、수현(スヒョン)の手によって、これ以上ないほどの残酷さで경철(キョンチョル)の命が絶たれる。
この時、수현(スヒョン)の立場はむしろ悪の側であり、自らの年老いた親や子の手によって切断された경철(キョンチョル)の生首は、彼をして、猟奇的な連続殺人犯としてでなく、ただ哀れな人間としての印象を見る者に植え付けるのだ。
つまり、このレビューの冒頭に書いたように、수현(スヒョン)は天使であると同時に悪魔でもあり、수현(スヒョン)がそうであるならば、경철(キョンチョル)もまた、同じように天使であると同時に悪魔でもある存在なのだ。

ここまで、書いてきたが、私は、映画を見ながらこのようなことを考えていたのでは無い。
むしろ、目を覆いたくなるような猟奇的なシーンの繰り返しに、論理的な思考をシャットアウトされ、ひたすら恐怖に怯えながら、指の隙間から恐る恐る画面を覗き見るばかりだった。
ところが、ラストシーンで、復讐を果たした수현(スヒョン)が声を振り絞るように泣く様を見ながら、以上のような感覚が一気に押し寄せてきた。

だからなのか、鑑賞中はあれほど恐怖に怯えていたのに、見終えた時には、恐怖感は全く残らず、「人間とは」「悪とは」と考え込み、あれは何だったのかと、記憶に残ったシーンの裏側に潜む監督の意図をひたすら考え続けていた。
そして、それを確かめるべく、再びこの映画を初めから見たくなったのである。
この映画は、このように非常に中毒性のある芸術性の高い映画だ。
これは、監督の意図的な演出と俳優陣のこれ以上無い演技力に、私が、してやられた結果だと思う。

たとえば、私は、この映画を1度めに見た時は、수현(スヒョン)が、なぜ경철(キョンチョル)の罪の無い肉親をわざわざ呼び寄せたのかが疑問に残った。
しかし、2度目に見た時は、自分なりに消化することができた。
年老いた경철(キョンチョル)の母親は、ゴロリと転がった彼の生首を今にも抱きかかえそうな勢いで泣き叫んだ。
それは、彼が悪魔でなく、確かに人間であったことを見る者に強く印象付ける。
そして、映画の中では描かれなかった彼の背景に私たちの目を向けさせる。
結局、彼の場合も수현(スヒョン)の場合もその行為そのものは<悪>そのもので、許し難いものであるが、その背景には、個人的、社会的な避けがたい理由があり、この2人も、その運命に翻弄され、自らの行為を止めることのできなかった弱い人間なのだろう。

このように、2度目を見終えて、1度目に生じた疑問は解けたが、また新たな疑問が生じた。
それは、映画の中に登場する3台の「タクシー」の存在である。

경철(キョンチョル)が学習塾の生徒をビニールハウスの中で襲い、수현(スヒョン)に半殺しにされた後、学習塾の送迎車を乗り捨て、偶然止めたのがタクシー強盗が奪ったタクシーだ。
また、경철(キョンチョル)が自分の身体の中に仕込まれたGPSに気づいて、それを下剤をかけて排泄するが、たまたまその公衆トイレに来合わせたのがタクシードライバーで、경철(キョンチョル)は、そのドライバーにGPSを飲み込ませ、彼のタクシーに乗って逃走する。
そして、ラストシーンでは경철(キョンチョル)の両親と息子がタクシーで駆けつける。
それらの車がタクシーで無ければならない理由は何だろう。
そこに、監督が仕組んだmetaphysical(形而上的)な意図があるのではないかと思ったのは、私の深読みのしすぎだろうか。

それを、すぐさま確かめたい衝動に駆られながら、私は、泣く泣くプサンを後にした。
私は、この映画の中毒にされながらも、みたび見ることを許されず、海原に放り出されてしまったのである。

私が、次に、この映画を見られるのは、いつ、どこでだろう。
日本での公開を強く願いながら、このreview(レビュー)を終えようと思う。

<以下、日本公開後追記部分>
日本語字幕を読みながら、数年前、荒れた学校に勤務していた時のことを思い出していた。
強いか弱いか、勝ったか負けたかしかボキャブラリーを持たない子どもたち。
ボキャブラリーが無いということは即ち価値観も育たないということだ。
勝ったか負けたかしか価値観を持たない荒れた仲間たちの中で、自らが傷つかないように武装するには、良心を捨てることしか術が無い。
良心を持つ者は苦しみ、持たない者は苦しまない。
それを、二人の名優がその表情で表現していると思う。

ギョンチョルは、なぜ鬼畜と化したのか。
ギョンチョルの生家に、保険の外交員を装ったスヒョンが現れる。
その家には、ギョンチョルの不幸な生育歴がそこここに残されている。
おそらくボール以外のものを打ち続けてきたであろう古びたバット。
ギョンチョルの両親と子どもの荒くれた言葉遣い。
人は人として育てられなければ、人として育たない。
「畜生」と言い続けられて育った子どもは畜生になる。
畜生となったギョンチョルは、「畜生」と言い続け、勝ち負けに最後までこだわっている。
相手の言葉の真意が理解できず、医者の言葉にも、スヒョンの最後の言葉にも、逆ギレするギョンチョル。

ギョンチョルに本当の苦しみを与えるためには、彼を人に戻すことだ。
しかし、言葉を理解できないギョンチョルには体現させるしかない。
それを悟ったスヒョンには、結局、ああするしかなかったのだと思う。

日本語の字幕が付き、わずかにテンポの速くなったこの映画を見ながら、改めて、この映画の凄さを実感する。
キム・ジウン監督は健在だと思う。

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by lee_milky | 2010-08-14 22:35 | +悪魔を見た | Comments(9)
Commented by みずき at 2010-08-14 16:44 x
milkyさん 早々に有難うございました。
私は、「連続殺人犯キョンチョル(チェ・ミンシク)に婚約者を奪われたスヒョン(イ・ビョンホン)が同じ方式で彼に復讐するという内容」というのしか知りませんでしたが、これは「甘い人生」なんてものじゃないですね。
ここまでの内容のものを作る意図がわかりませんし、ここまでする意味がこの映画にはあるのだろうけど私には理解できないのかなと思った記事でした。
韓国で見てきた方が「自分には無理でした。1度で十分、日本に来ても観ないかも」とありました。
でもmilkyさんの<だから、鑑賞中はあれほど恐怖に怯えていたのに~私が、してやられた結果だと思う。
という文に「そうなんだ」と納得したした感がありました。
スリラージャンルに入るの?ですね。
milkyさん、本当に字幕なしでここまで内容を把握されて良く見てこられましたね。すごいです。それこそ私にも無理かも。
Commented by lee_milky at 2010-08-14 19:23
☆みずきさん、こんばんは。
そうですか?
日本に来ても見ない。。。こういった方が多いとなると、日本公開は難しいかな?

う~~ん、ジャンルはどうなのか、私、映画のことを余り知らないので、良く分からないのですが、芸術的な作品だと思います。
私、この映画、どの映画より好きになったかも?^^

いえ、勘違いかもしれませんよ。
台詞はほとんど聞き取れませんでしたから^^;
Commented by みずき at 2010-08-18 13:00 x
こんにちは。
この映画、ストーリーが単純な中でこれだけの理解力をもってレビューしておられるmilkyさんはすごいですね。
読んでいて
>つまり、このレビューの冒頭に書いたように~同じように天使であると同時に悪魔でもある存在なのだ。
>それは、彼が悪魔でなく~自らの行為を止めることのできなかった弱い人間なのだろう。
>非常に中毒性のある芸術性の高い映画だ
という部分が印象に残りました。
このレビューを監督さん、ミンシクシ、ビョンホンシに読んでもらいたいですね。
韓国のカフェの方は読んでくださっているのでしょうか?

PS.メールの飛べなかったサイトはミョンミンシのことで、気にしてもらう必要はありませんので。
Commented by lee_milky at 2010-08-18 13:47
☆みずきさん、こんにちは。
そうですか?
なぜ、飛べなかったんでしょう?

はい。
多分深読みのしすぎなのでしょうが、すごく読んで頂きたい気分です^^
今週末、監督とビョンホンシとファンとの約1時間のトークイベントがあるんですよ。
今、カフェで、それを募集中なんですが、勿論、私は仕事もありますし、行けないのですが、ほんと、飛んで行きたい気持ちです。
カフェにも、この感想を上げてはいますが、あまりに早く上げすぎて、もう随分下の方の目立たないところに下がってしまいました^^;

あとで記事を読んだら、この多義図形は美術チームが発案されたそうでした。
Commented at 2010-08-29 00:24 x
ブログの持ち主だけに見える非公開コメントです。
Commented by lee_milky at 2010-08-29 08:57
☆非公開さん、おはようございます。
贅沢を言ったらきりがないけど、お互い、2度も見られた幸福をかみしめましょう^^

音楽・・・私が特に記憶しているのは。。。
キョンチョルが下剤をかけてスヒョンが仕掛けた盗聴器を排泄するでしょう?
そこにスヒョンが後から行ってトイレの個室を次々開けるところの打楽器の音の強いBGMです。
物音と曲が一体になってて、洒落てるなぁって、驚いちゃいました。
冒頭の曲はどうだっただろう?
なにせ、あの悪魔の顔がちらついてそこに気持ちが奪われてたかも?
あれ、美術チームの発案らしいですね。
ギターは記憶あります。
あれも、何か意味があるのでしょうね。
それぞれがそれぞれのこだわりとか生活経験を引っ提げて見るから、記憶に残る部分も違うのでしょうね。
面白いです。
Commented by lee_milky at 2010-08-29 08:57
☆非公開さん、続きです。

あのスヒョンの最後の表情がなかったら、もしかしてただの恐怖映画で終わるかもしれないですね。
あのバット、私もそう捉えました。
はい。
私も、リアルタイムではほとんど聞き取れなかった。
それで、後からネットでたまたま台詞を読んで、あ~、やっぱりそうだったかって。
表情で、なんとなく分かるものですね。

はい。
あの時のミンシクさんすごかったです。
「チョンマルミアネヨ。」しか聞き取れなかったから、その後、表情が豹変して何というのか知りたいですね。

そう、最後まで頑張って見たら、また見たくなる映画です。
Commented by rokugatnotiko at 2011-02-27 14:48 x
昨日は会を開催して頂きありがとうございました。

充実した1日となりました。

音楽の関係とか、最初の悪魔に見える図とか記憶が定かじゃないので
もう一度見たい気分です。

帰りデパートの店員さんにクリアファイルみて「どうでした?気になっているんです」って話かけられて、覚悟してでも見に行く方が良いと答えましたよ~

それでは、또만나요
Commented by lee_milky at 2011-02-27 22:19
☆rokugatnotikoさん、こんばんは。
こちらこそ、昨日はありがとうございました。
やはり、見終えた後にみなさんとお話しが出来ると楽しいですね。

あらぁ~、帰りにプロモーションされたんですね^^
私も頑張ろう^^

はい。
また、お会いしましょう。
時々、LBH映画ブログのチェックをお願いしますね。
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