冬の小鳥日本語字幕版を観たので、もう一度、この映画の感想を書こうと思います。
この映画の中で、私が最も衝撃を受けたのは、ジニが自分が埋葬した死んだ小鳥のように、自分自身を埋葬しようとしたシーンです。 ジニは自ら掘った穴に横たわり、土をかけていきます。 最後に、顔の上にも土をかけた瞬間、カメラがアップになり、苦しくなったジニが必死に土を払い、顔を出す様がクローズアップされます。 私は、ジニがその瞬間に、生きるために自分の運命を受け入れようと決心するのだと受け取りました。 つまり、私は、この時、ジニは幼いながらにも、一度は死を選び、実行に移したけれど、もとより、そんな方法で死ねるわけもなく、死ぬことが苦しいと実感し、生きる道を選んだのだと思ったのです。 しかし、パンフレットやネットの所感を見ると、このシーンを儀式と捉える向きが多いようです。 つまり、海外養子として生きる道を選んだ彼女が、これまでの自分と決別するために、一旦あそこで以前の自分を埋葬し、新たな人生への第一歩を踏み出すきっかけとしているというのです。 この2つの解釈は似ているようで、全く非なるものだと思います。 監督はどのような意図であのシーンを撮影したのか、聞いてみたいところです。 また、字幕を読んだことで、新たに衝撃を受けたシーンとしては、ジニが医者に自分が養護施設に連れてこられたのは、安全ピンのせいだと語るシーンがあります。 ジニは、お父さんと新しいお母さんとの間に生まれた弟が可愛くて、思わずダッコしますが、赤ちゃんが泣き出してしまいます。 その泣き声を聞きつけた両親がジニと弟のところにやってくると、弟の足から血が出ていて、ジニは安全ピンで刺したと疑いをかけられます。 彼女は、そのことが原因で、自分が父親から養護施設に預けられたと思っているのです。 その話を聞いた医者は、「お父さんが、ジニに幸せになって欲しいからだよ。」と言いますが、原因は、その両方でしょう。 この映画を見ながら、私がずっと思っていたことは、人の幸せって何だろうということです。 確かに、養父母の元で成長すれば、生活は豊かになります。 精神的にも、養父母に優しく接してもらえるかも知れません。 でも、人の幸せとはそんなものでしょうか。 ジニはどんなに貧しくても大好きだったお父さんと暮らすのが最も幸せだったのではないでしょうか。 自分の物差しで量って、子どもの幸せを判断するのは、親のエゴだと私は思います。 彼女が海外養子になり、幸せに暮らすことが出来るのは、彼女が可愛くて利発だからです。 彼女の親友スッキは、既に、初潮を迎えていることを隠していました。 また、養護施設はなぜか女の子ばかりでした。 さらに、養護施設の古株である足の不自由なイエシンは、結局、海外養子縁組が成立せず、韓国人の養父母に家政婦代わりに引き取られて行きます。 このことは、海外養子縁組で好まれる子どもとそうでない子どもが居るということを表しています。 複数の孤児の中から選んで養子とするシステム上、それは当然のことと言えるかも知れません。 その子がどんな子であっても無償の愛を注ぐことの出来るのは本当の親であるはずなのに、その親に手放なされた子どもが、幸せであろうはずがありません。 傷ついた心の隙間をお金やもので埋めることは出来ないのだと、幼い頃、ジニと同じように、海外養子として韓国からフランスに渡ったルコント監督自身が、プレゼントの人形をジニがバラバラにするという映画の中の強烈なワンシーンを通して語っています。 ♪あなたは知らないでしょうね どれだけ愛していたか 時が流れればきっと後悔するわ♪ 大好きだったお父さんと、厳しいけれど暖かい眼差しで彼女たち孤児を見守ってくれた寮母さんにジニが歌ってあげた歌です。 ジニはこの歌の意味を理解しない養父母の元へと旅立っていきました。 その後ろ姿が、最後の最後に、子育てはお金ではないということを物語っていました。 ジニがその時着ていたのは、父がなけなしの金で買ってくれたよそ行きのジャンバースカートでした。 丈の短くなったそのジャンバースカートの裾に寮母さんが別布でフリルを付け、彼女に会うようにしてくれていました。 彼女には、新しい服も新しい靴も要らなかったのです。 清潔に洗い、自分の成長に合わせて仕立て直された服さえあれば良かったのに。 ※飛ばない時はこちらから
by lee_milky
| 2011-02-17 01:23
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Comments(4)
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みずき
at 2011-02-17 14:17
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milkyさん こんにちは。
この映画のタイトルが以前にも出てきていて気になっていました。この映画は昔のかと思いましたが最近のですね。 検索で映画評論家さんの記事を読みましたが評論とはこう言うものかと思いました。 milkyさんのこの記事は心が伝わってきて、切なくじ~んとしました。 孤児たちも捨てられてもずっと本当の親を求めて探していますよね。 本当に何をもって幸せというのでしょうか。人それぞれ違うのは分かりますが現在の社会においてもみな「幸せ」を探しているように思います。幸せって心の持ちようでしょうか? そして子育ての難しさ、大切さを感じています。
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lee_milky at 2011-02-17 21:10
☆みずきさん、こんばんは。
はい。 この映画、韓国とフランスの合同で制作され、韓国では2009年に公開され、日本では、今、順次全国で上映中です。 先月は福岡のKBCシネマで上映されていたのですが、今回、福智高等学校の公開特別講座で上映会と解説が行われました。 上映後に行われた通訳の大塚大輔さんの解説は、とても分かりやすく、興味深い内容でした。 秋に再び今回とは少しコンセプトを変えて、この映画の上映会をするそうです。 >現在の社会においてもみな「幸せ」を探しているように思います。 なるほど、してみると、人生そのものが幸せ探しの旅なのかも知れませんね。 話は逸れますが、昔の日本は、無理心中が多かったですよね。 それなら、例え海外養子になろうとも、命があるだけで幸せかも知れないとも思いました。
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cinema_61
at 2011-02-18 11:54
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milkyさんこんにちは。
再びこの作品を取り上げてくださり有難うございます。 私にとってもこの映画は昨年観た中のベストテンに入る印象深い作品です。 根底に流れるのは親子の愛についてですが、その表現方法が素晴らしかったです。韓国映画ではありますが西洋の感じ方も現れていて、観終えたときの清清しさは格別でした。 東京では岩波ホールで上映されたのですが、ここで上映される映画はどれも素晴らしいもので、最近では「クレアモントホテル」でしたが、これも味のあるいい作品でしたよ。
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lee_milky at 2011-02-18 19:08
☆cinema_61さん、こんばんは。
こちらこそ、再びコメントを頂いてありがとうございました。 そうですか。 >西洋の感じ方も表れている・・・ それは、やはり監督がフランスでフランス人の養父母に育てられたからでしょうか。 私も、岩波ホールで発売されていたパンフレットを持っています。 その造りがとても丁寧で、映画を大切に大切に世に送り出している感じがしました。 私が、東京をうらやましく思うのは、居ながらにして、あらゆる本物に触れられるという点です。 勉強不足で、映画の話題には、ほとんどついていくことができませんが、また、いろいろ教えて下さいね。
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