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けつわり


今年の福岡インディペンデント映画祭では、二日目の最後に、「ヤン・イクチュン監督映画を語る」という特別招待企画がありました。
このコーナーでは、ヤン・イクチュンシの主演作「けつわり」と監督作「しば田とながお」上映後に、ヤン・イクチュンシによるトークイベントが予定されていました。

そこに、「けつわり」の安藤大祐監督の登壇や当時ご自宅を撮影場所に提供された方からの花束贈呈というサプライズもありました。

先日も書いたように、そのきっかけを作ったのは、何を隠そうこの私です^^
ご自宅を提供されたご家族とヤン・イクチュン監督の面会はあらかじめ決まっていたのですが、そこに安藤監督や映画祭MCの大塚大輔さんやヤン・イクチュン監督に帯同された日本の提携者の方も加わっての打ち合わせの楽屋に私も加わらせていただくことができました。
夢のような空間にお邪魔してラッキーでした。
映画祭終わりの懇親会にも参加したので、いろいろとコアなお話も伺うことができましたが、ここでは、トークイベントで明かされたこととネット公開しても差し支えのないことを書き留めておこうと思います。

まず、安藤大祐監督とヤン・イクチュン監督の出会いについてですが、安藤監督は東京外国語大学の朝鮮語学科のご出身で、在学中に韓国に語学留学経験があるそうです。
しかし、映像関係の仕事に就きたいとの思いから、語学の勉強そっちのけで、韓国国内の映画祭を行脚していたそうです。
韓国は、もともとインディペンデント系の映画祭が多いのです。
その時、多くの映画に出演していたのがヤン・イクチュンシで、当時、意気投合し、安藤監督が自分が映画を作ることがあったらと、ヤン・イクチュン監督に出演依頼をしたそうです。

留学から帰った安藤監督は、昔、朝鮮から徴用されていた朝鮮人労働者をかくまったことがあるというご自身のおじいさんの体験をもとに「けつわり」というシナリオを描き、自主映画を撮影されました。
「けつわり」とは、仕事を途中でやめることで、炭鉱地ではよくつかわれる言葉でした。
映画は、炭鉱で働いていた朝鮮から来た工夫が、辛い労働に耐えきれず、山を逃げ出します。
そして、友達からいじめられていた少年と出会い、少年の家でかくまってもらうというストーリーです。

安藤監督は、この映画を就職活動の一環として制作されたのではないかと、私は思いました。
なぜなら、大学卒業後はテレビ局に就職され、いまもその局でドラマなどを制作されているからです。

さて、安藤監督の御実家が福岡県だったことから、ロケ地は福岡県のあちこちが選ばれました。
ケツを割った朝鮮の若者をかくまった少年の生家は安藤監督が古民家を探していたところ、監督の友人の友人の家がぴったりというので選ばれたそうです。
そのお宅が、今回、私が偶然にも映画祭のフライヤーを渡した方のお宅で、その方のお嬢さんが、監督の友人の友人に当たる方です。
そのお宅の飼い犬が映画の中で頻繁に登場するのですが、14歳になった今も健在だそうで、その写真を監督やヤン・イクチュンシが懐かしそうにご覧になっていました。

大学生が制作した超低予算映画なので、韓国から招聘されたヤン・イクチュンシは、安藤監督の御実家に一週間ほどホームステイしておられたそうです。
ちょうどそのころ、「息もできない」のシナリオ執筆中で、お宅の近くにあった静かな公園で、加筆されたということでした。
ソウルにあるヤン・イクチュンシの御実家は「息もできない」に登場するような環境だったため、安藤監督の御実家の温かい雰囲気と静かな福岡の環境に心穏やかになり、筆が進んだということでした。

そのあたりの心境が映画にも反映されているのか、映画は、とても落ち着いた雰囲気の中で、少年と朝鮮人少年の心の交流がしっかりと描かれていて、映画を専門に学んだわけでない大学生が初監督した映画とは思えない作品でした。

この作品には、三人の子役が登場するのですが、みんなそれぞれに俳優として活躍しておられるそうです。
一方、ヤン・イクチュンシは、この後、自身が監督・主演を務めた「息もできない」で世界を席巻するわけで、この映画は奇跡の一作と言えるのではないでしょうか。

ちなみに、ヤン・イクチュン監督に聞いてみたところ、俳優業と監督業では後者の方に魅力を感じていて、今も新作映画を執筆中だそうです。






by lee_milky | 2019-09-05 23:03 | 映画 | Comments(0)
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